空港へと向かった香藤を見送って。
岩城はよろよろと自分のベットに倒れこみ、沼底のように深い眠りへと落ちていった。

・・・・・・ふと目を覚ますと、部屋は茜色に染まっていた。
黄金の夕暮れ。ひどく人恋しくなる、火点し頃。

「香藤・・・・・・」

たかがインフルエンザくらいで、と自分でも思う。高校生の時分、ナナハン転がしてイキがってた頃など、喧嘩で肋骨を折ったこともあれば、チキンレースで危うく崖下へ転落しかけたこともあった。
それに比べればこのくらい、どってこともない、はず、なのに・・・・・・。

ひどく、よそよそしく感じられる。・・・・・・見慣れたはずの室内が。
ひどく、寒々しい気がする。・・・・・・自分のベットなのに。

弱気になっていたのかもしれない。

「・・・・・・そばに、いてくれ・・・・・・。俺が、眠るまででいいから・・・・・・」

普段、封印しているはずの言葉が、岩城の唇から思わずこぼれおちた。

「・・・・・・うん。いるよ、そばに」
「!? かとっ・・・・・・」

岩城の目がくわっと見開かれる。慌てて足元を見やると、ベッドサイドにもたれるように蹲っていた香藤が、眠そうに眼をこすっていた。

「お前、どうして・・・・・・」
「隣国でテロ事件が起きたんだって。で、搭乗客は全員待機。・・・・・・ま、実質上、仕事キャンセルだね」

事情を説明しながら、香藤はどこか楽しげに自分の服を脱いでいく。

「香藤・・・・・・???」
「そばに、いてほしかったんでしょ? 岩城さん」

言いながら下着姿になった香藤は、するりと岩城のベットにすべりこむ。

「・・・・・・おい」

さぁぁっと岩城の白皙の頬に朱が散った。昼間交わした、あまいあまい口付けの感触がよみがえってくる。

「いるよ、そばに。朝も昼も夜も、ずっと・・・・・・」

優しく囁きながら、香藤はくるりと岩城の体をくるみこむ。下肢にあたる硬い感触。自分に触れるたび熱くなる彼がたまらなく愛おしくて、岩城はお日様の香りがする香藤の胸に頬をすりよせた。
温かくて、優しくて、幸せな・・・・・・、不思議と懐かしいような気がする香藤の腕の中、岩城は底なし沼に引きずり込まれるような孤独感が溶けて消えてゆくのを感じた。
まるで、昼間、口移しで与えられた蜂蜜飴のように。