primroseのblog

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春を抱いていた関連

悪夢2

「――――っっ!!!」

声にならない悲鳴を上げて岩城はとび起きた。暗闇の中、カッと目を見開く。

「岩城さん、大丈夫!?」

カチッとスイッチを叩く音がして、サイドテーブルの小さな明かりがついた。温かい香藤の手が両肩にかかり、岩城はびくっと体をこわばらせる。認識が追い付かず、現状が把握できなかったのだ。
間近で心配そうに瞬く、琥珀色の瞳。

「・・・・・・夢を、見たんだね。大丈夫、オレがそばにいるよ、大丈夫・・・・・・」

辛抱強く語りかけながら、震える背中を優しく撫でさする。香藤の慈しむような優しい慰めに身をゆだねながら、岩城はほっと息をついた。

「夢か・・・・・・、よかった・・・・・・!」

かすれた声で、血を吐くようにつぶやく。A・M4:23。喉がからからに乾いていた。





「オレを殺す夢、ねぇ・・・・・・」
「―――ああ」

香藤はそうつぶやいたきり、絶句した。さすがに何と言ったらいいのか、思いつかなかったのだ。
岩城は両手で持ったカフェオレカップに視線を落としたきり、じっとしている。ホットミルクの湯気とともに、ふわりとただようオレンジの香り、コアントロー。お茶請けに添えられた胡桃は黒糖を絡めたもので、どちらも精神を安定させ、安眠をうながすためのものだった。そこらの主婦顔負けの気遣いに苦笑しつつ、岩城はじっとカップを覗き込む。・・・・・・愛情の深さがわかるだけに、どうしても、香藤の顔をまっすぐ見られなかったのだ。

「ん~~、ねえ、人を殺す夢って、どんなの?」
「・・・・・・え?」
「ええと、夢占いとか、心理分析とかの解釈なら、さ」
「ああ・・・・・・」

―――何故そんな夢を見たのか、どうすればそんな恐ろしい夢を見ずに済むようになるのか、香藤は一緒に考えようとしてくれているのだ。その優しい気持ちに励まされるように、岩城は記憶をさらった。

「人が殺される夢は、一瞬ぎょっとするものだが、おおむね良い夢だと言われている。たとえば親を殺す夢は自立心が高まっていて、親に依存した関係を終わらせようとする意志を意味するし、見知らぬ誰かが殺される夢は、抱えていた問題が解決される兆しだとも言われている。ただ、恋人や夫婦の場合は複雑で・・・・・・」
「・・・・・・うん」
「日頃ため込んだ鬱憤や押し殺した怒りが夢に出てて、現実には実行できない代償として夢に見るケースや、あ・・・・・・」

―――独占欲。恋人が殺される夢の場合は、その人を絶対失いたくないという気持ちの表れ、だ。
岩城は思わず口元を手で覆う。
夢の中でも独占していたいと思うほど嫉妬深かったのかと、岩城は頭を抱えたい気持ちになったのだが、コワイ単語だけずらずら並べ立てられて、しかも言いにくそうに言葉を切られた方はたまらない。

「な、なに、・・・・・・もっと悪いこと?」
「う・・・・・・っ」

不安げに揺れる、琥珀色の瞳。
岩城は香藤を見て、手元のカップを見て、腹をくくった。・・・・・・笑われて死んだヤツはまだいない、と。

「・・・・・・いや。恋人を殺される夢の場合は、その人を絶対失いたくないという気持ちの表れで、殺す夢の場合は、その人を誰にもわたしたくないという、独占欲の表れ、だ」

さすがに、恥ずかしくて、声が震えた。カップをナイトテーブルに置いてそっと香藤の様子をうかがうと、ぽかんとした表情がみるみる笑み崩れ、さながら夏場のアイスクリームのごとく、でろでろに蕩けきっていた。
にやけきってて見ていられない。

(・・・・・・そこは喜ぶようなところかー?)

莫迦かと大笑いされるか、オレを信じられないの?! と怒鳴られるものだとばかり思っていたのだが・・・・・・、岩城は別の意味で頭を抱えたくなってきた。

「ふぅん・・・・・・」
「・・・・・・なんだ」

ニヤッと意味深に笑うと香藤は岩城の両手をとり、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。ぐらっと体勢を崩したところで片方の腕だけ強く引っ張り、互いの体を反転させる。岩城は自然と、香藤の上に馬乗りになった。

「ばっ、莫迦、あぶな・・・・・・」
「―――いいよ、殺しても」
「え・・・・・・」
「岩城さんも一緒なら、ね」

香藤は岩城の両手を自分の喉元に導く。手のひらに脈打つ香藤の鼓動を感じて、岩城はぶるっと大きく身を震わせた。

「莫迦っ、俺は、生きてるお前を愛してるんだ!」
「・・・・・・・うん」

叫んだきり、絶句して真っ赤になった岩城を見上げながら、香藤は思った、やっぱり違うな、と。
いつもの岩城なら、こんなこと、夢にさえ思わなかったに違いない。

(毎日生まれ変わる岩城さんを、毎日、初めての気持ちで抱くんだ)

―――のんきに死んでなんかいられない。人は毎日変わる。昨日よりも今日、今日より明日。もっともっと綺麗になる、もっともっと素敵になる、岩城京介を見逃すことなど、少なくとも自分には耐えられない。叶うものなら岩城が生まれた瞬間まで時をさかのぼり、コマ送りでつぶさに見守りたいくらいだ。
岩城が自分と同じように考えるとは限らないが、それでも、死を美化し、未来を捨てる不毛さに気付かないはずはない。だとすれば・・・・・・。

(別の誰かの感情を、引きずっているんだ)


悪夢


真夜中の自宅。
熱帯夜特有の粘ついた息苦しさを感じながら、俺はリビングへ向かう真っ暗な廊下を歩いていた。
何故だろう? じっとりと纏わりつく空気が気持ち悪いぐらいなのに、足元から底冷えするほど寒さを感じるのは。
目をあげると、リビングから温かな光が漏れていた。

(あそこへいこう。リビングなら・・・・・・)

きっと、香藤がいる。あいつのそばなら、きっと、こんな氷塊を飲み込んだような悪寒も霧散するはずだ。
かじかむ手を伸べて、俺はリビングへと続く扉をあけた。





「さよなら、岩城さん」
「・・・・・・・・・・・・」

香藤は、それまで座っていた椅子から立ち上がると、目も合わせずそう言った。

(な・・・・・・、に・・・・・・)

思考がついていかない。彼は、何を言いたいんだ? 何を言って・・・・・・。
呆然と香藤を見詰めていると、彼はジーンズのヒップポケットから愛用の皮財布を取り出し、俺がプレゼントしたキーホルダーからパチンとこの家の鍵を外した。

「さよなら」
「・・・・・・・・・・・・」

テーブルの上に置かれた果物皿と鍵がぶつかって、カチンと澄んだ音を立てた。
鈍く光る果物ナイフ。真っ赤な林檎。早緑色のマスカットを見るともなしに見ながら、まるで、それらに話しかけるように香藤はささやいて、背を向けた。瞬間・・・・・・。

(あ、まて! まさか・・・・・・っ!?)

白磁のごとく白い、力強さを秘めた手が、ナイフを手に取った。
切っ先が向かう先にあるのは、香藤の背中・・・・・・っ!

(うわっ、莫迦、やめろ・・・・・・!!)

ずしんとナイフを握る手に荷重がかかる。ブツブツと分厚いゴムを切断するような、恐ろしい感触ののち、ナイフは柄まですぅっと香藤の体内に飲み込まれ、カツンとなにか固いものに当たって、止まった。

(・・・・・・・・・香藤っ!)

香藤は、驚いたようにこちらを振り返ると、ぐらっと体勢を崩してその場にうずくまった。真っ白なシャツに広がった真紅の血。青ざめた唇に、いままで見たこともない、悪魔のように冷たい微笑を浮かべて、言った。

「無駄だ、よ・・・・・・・。オレの、心、は、自由だ・・・・・・」

(ばっ、莫迦っ、恰好つけてる場合か・・・・・・!!)

「―――それでも、お前は俺のものだ、永久に」

冷たい声。耳を塞ぎたくなるような哄笑が響きわたる中、俺は魂の奥底まで震えあがり、叫んだ。

(別れるなら別れるでいい、他に何人好きな人がいようとかまわない、もう一度、振り向いてもらえるよう努力するまでだ! だから、だから、香藤・・・・・・っ)

むせ返るような血の匂い。俺が愛した、なにより愛した、香藤の生命の輝きに満ちた瞳から急速に生気が失われ、人形のように虚ろな、がらんとした空洞に変わってゆく・・・・・・。

(香藤、死ぬなっっ・・・・・・・・!)



闇夜


・・・・・・月の光が妬ましい。
つかの間の眠りに沈むお前を、わが物のごとく照らしてる。
いっそ今が闇夜なら、お前を攫ってゆけるものを。

撫ぜるように、愛でるように、月の光がお前の姿形をなぞってゆく。
惜しげなく曝された裸身。
うねるたてがみ、すっと通った鼻筋、生命の輝きに満ち溢れた瞳が閉ざされているせいか、高貴さ際立つ美貌。

・・・・・・独り占めすることはできない。
生命が生命であるがゆえに生命を慈しむお前。老若男女はおろか、野生動物ですら惹かれ、群れ集う。

美しい男。
日の光に愛された褐色の肌を、官能的な甘さをたたえた唇を、ねぶるように、這うように伝う、月の光。
・・・・・・羨ましい、妬ましい、いっそお前を攫ってゆけたなら・・・・・・!

・・・・・・駄目だ。
出来なくはないが、したくない。

手のひらに落ちてきた太陽。
お前という光を喪ってまで、この恋を進めようとは思わない。
閉じ込められた光はもはや光ではなく、いかに愛おしもうとも、摘めば、草木は枯れるのだ。

けど・・・・・・。

真っ白なシーツの上に落ちた真っ黒な人影に、そっと口付ける。

・・・・・・この影だけは俺のもの。俺だけのものだ・・・・・・。

後朝


自分の部屋の扉を開けた時。明け方まで離さなかった愛しい人の香りがふわりとただよった。

「岩城さん・・・・・・」

今日は2月14日、ヴァレンタイン・デー。恋人たちの祝日。

・・・・・・しかし。
日本を代表する俳優である2人がたやすく休みを取れるはずもなく、今日も今日とて岩城はアフリカへ撮影に、香藤も午後からペルーへ旅立つ予定だった。
ゆえに、2人は前日の内にプレゼント交換していたのだ。

「いま見せてくれたっていいのに」という香藤に、「恥ずかしいだろっ、こーいうのはっ」と岩城は猛反発。しかたなく「岩城が旅立った後に」、箪笥の一番上の引き出しを見ると約束したのだが・・・・・・。

「あ・・・・、れ・・・・・・?」

かたりと引き出しを開けると一段と強くなる、理知的でおだやかな森林の香り。
一番上には、綺麗にラッピングされたプレゼントが置かれていた。・・・・・・香りの発生源は、自分の体だけではなく、ここにもあったようだ。

包装をとくと、紺色のパジャマがでてきた。左胸ポケットのエンブレム中央には「k」のイニシャルが。これはもちろん、京介の「k」だろう。
それと、淡い水色のしおり。鼻を近づければ岩城のコロンの香りが胸いっぱいに広がって、甘酸っぱいような、切ないような、なんとも悩ましい気持ちになってしまう。

(岩城さん・・・・・・)

「・・・・・・夫婦、だもんね・・・・・・」

香藤はふふっと、ちいさく笑った。


                             *



同じ頃。
香藤より一足先に機上の人となっていた岩城は、「飛行機に乗る前に」開けて、と頼まれたアトマイザーを片手に、くすっと笑った。

「夫婦相和し、か・・・・・?」

香藤が贈ってくれたのは「香水」、自分が贈ったのは「文香」。

シンクロニシティ?  いや、2人同時に同じことを願ったからだろう。
ふと思いついて、ハンカチにコロンを振りかける。シヤープでセクシーな、しかし温かみのある香りが広がった。

「あら、岩城さん、その香水は・・・・・・」

隣の座席に座っていた清水が声をかけた。

「・・・・・・プレゼントに、貰ったんですよ。俺には若すぎる香りですが・・・・・・」

ふっと目を伏せて、岩城は艶やかに微笑んだ。

「あいつの香りですから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

地雷を踏んで、清水は顔をおおった。ーーーこれで無意識なのだから、まいってしまう。

St.Valentine’sday.
共に在ることができないなら、せめてあなたの香りをまといたいーーーー

「・・・・・・・・永遠の新婚ですね・・・・・・・」

清水の脱力しきった声は、誰の耳にも届かなかった。

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I will be with you foreve


「宅配便です」
「はい」

岩城が受領書にサインをして宅配業者にわたすと、彼は、怪訝そうな表情をした。
さもありなん。差出人住所も受取人住所も同じなのだから・・・・・・・・。

差出人の名前は「香藤洋二」。
・・・・・・同じ家に住んでいるのだから、リビングにでも置いとけばいいだろう? という岩城に、「それじゃあ誕生日プレゼントの意味がないでしょ!?」という香藤の謎の理論に押し切られ、岩城はしぶしぶ荷物を受け取った。
ちなみに、くだんの困った恋人は、日本からは遠い空の下。
急遽入ったファッション雑誌の取材のため、岩城の誕生日当日の今日、アメリカにいる。

・・・・・・仕事に行けと言ったのは、岩城だった。だから、言えない。

「香藤・・・・・・」

(プレゼントよりも・・・・・・・・)

・・・・・・行けと言った本人がそれを否定するのは、フェアーじゃないだろう。岩城の唇からこぼれかけた言葉は、音になることなく、寂しげにゆらりとたわんだ。
ぱたりとリビングのドアーを閉めて、岩城はそっと、宛名書きを撫ぜる。
まるっこく、おおらかな、香藤そのもののような字。

「まったく、あいつは・・・・・・」

岩城が小脇にかかえた「プレゼント」は、布団でも入っているのかと思うような、巨大なものだった。
カッターナイフを取ってきて、慎重に小包を開いてゆく。
中に入っていたのは大きな紙袋よっつと、小さな紙袋がひとつ。

「・・・・・・?」

なぜ、小分けにされているのだろう?

小さな方にはハンカチが4枚、大きな方は・・・・・・。
まず、ひとつめの紙袋には、カーディガンとマフラー。ふたつめの紙袋には、絹のスカーフと折り畳み傘。みっつめの紙袋には、サングラスとサンバイザー。よっつめの紙袋には、大判のストールと手袋。

「???」

ストールやマフラーは解る。岩城の誕生日は真冬、衣類をプレゼントするならこういうラインナップになってもおかしくはないだろう。が、サングラスやサンバイザーはどう考えても夏のものだ・・・・・・。

(・・・・・・夏? そういうことか・・・・・・!)

プレゼントは合計「12個」。
それの意味することは・・・・・・。
カーディガンとマフラーは「冬」。サングラスとサンバイザーは「夏」。
贈り物に託されたメッセージは・・・・・・。


岩城は、物のかたちをした香藤の心を、ぎゅっと抱きしめた。


春も、夏も、秋も、冬も。
そばにいるときも、いないときも、どんなときも。
あなたのそばにいる。


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